【岡山】自動車衝突実験に参加してきました【EDR】

11月25日~11月27日にかけて、岡山で行われた一般社団法人 車載データ解析協会(CDRA)が主宰する自動車衝突実験に参加してきました。

こちらの実験、近年事故の調査で活用され始めているEDRデータの記録が、どのような状況下で記録されるのか?というテーマを、実車を用いて調べるという内容です。

今後のEDRの活用につながる有意義な実験結果を大まかにまとめたレポートとなっておりますので、ご興味がある方はぜひご覧ください。

EDRを使った衝突実験とは?

今回の衝突実験はEDRの記録がどのタイミングで行われるのか?というテーマで行われました。EDR(イベントデータレコーダー)とは車に何らかの衝撃が加わった際に、その時の車両状態(速度、ブレーキ、ハンドル操作の有無など)を記録したデータのことを言います。

このEDRは主に交通事故時のデータを記録する装置ですが、条件によっては事故以外の場面でも記録が残るため、事故の解析に役立つ有用なツールとして周知され始めています。

一見すると交通事故当時の車両状態が分かるEDRは、事故調査において非常に有用である反面、“フレームそのものに衝撃が加わらないと記録されない”という弱点がありました。

しかしながら、フレームにダメージがいかない場合でもEDRが記録されるケースも確認されており、今回の実験では“どのような衝撃を加えるとEDRが記録されるのか?”という疑問を解決することをテーマに検証を進めていきました。

衝突実験の内容

実験の内容は次の4ケース。実験全体では5つのケースを検証しましたが、その中でも重要なデータがとれた4ケースの実験内容と結果を簡潔にまとめておきます。

※注 今回の実験の結果はあくまで実験に使用した車両の場合の結果です。同一の事例であっても対象となる車両、路面状況、その他外的要因などによって結果が変化する場合があります。あくまで参考情報としてご覧ください。

ケース1:前方衝突(フルラップ)

実験の条件
  • 前方に停止している車両への追突を想定
  • 速度をEDRが記録されるまで上げて実施
  • 実験の結果
  • 停車車両では時速30㎞以上でEDRが記録されることを確認
  • ケース1では停止車両への追突事故を想定した実験です。時速10㎞から実施し、衝突車両と被衝突車両双方にEDRが記録されるまで実施しました。

    衝突側の車両。複数回の実験で全部が大きく破損している

    この実験では、時速10㎞で衝突車両に記録が入るものの、被衝突車両へは時速約30㎞の衝突で初めてEDRが記録されました。時速30㎞といえば今年議論された“生活道路の法定速度”と同じスピードです。

    つまり、徐行よりもかなり速い速度で追突されない限り、被衝突車両には記録が残らないという結果になりました。これは非常に興味深い記録で、徐行程度で追突された場合、追突された側の車両にはEDRが記録されていないケースがあることが示唆されました。

    ケース2:前方衝突(オフセット)

    実験の条件
  • 停止している車両へオフセットした状態で衝突
  • オフセットのレベルを変更して複数回実施
  • 衝突速度はケース1と同様
  • 実験の結果
  • オフセット衝突の影響はフルラップの記録に対して軽微だった
  • 次のケースは被衝突車両にオフセットさせて衝突させる実験です。追突を避けようとしたが間に合わなかった、というケースをイメージしてもらえると分かりやすいでしょう。

    こちらはオフセットしている分、力が分散するかと思われましたが、ケース1と同様の速度で追突した結果、衝突車、被衝突車両双方にEDRが記録されました。

    同一方向の力の入力であればオフセットの影響は記録においては軽微だということが分かります。

    ケース3:側面衝突(入射角あり)

    実験の条件
  • 被衝突車両の左側方へ衝突
  • 入射角は45°以上
  • 衝突速度は被衝突車両にEDRが記録されるまで加速
  • 実験の結果
  • 入射角がある衝突では被衝突車両への力が分散され、EDRが記録されないケースを確認
  • ケース3は被衝突車両の左側方へ入射角を付けて衝突させる実験です。シチュエーションとしては左折中の前方車両へ追突してしまったようなケースです。

    こちらの実験は、結論から言えば被衝突車両へEDRは記録されませんでした。これは恐らく被衝突車両が側面からの衝突により回転し、力が分散されてしまったことが原因と考えられます。

    左リアタイヤ付近へ斜めに衝突した後の被衝突車両。外板パネルが凹んでいるものの、骨格はしっかり維持されている

    というのも、衝突車両に記録されたEDRを解析すると、衝突速度を上げているにも関わらず、入射角によっては衝突時の衝撃が小さくなっていることが分かりました。これは被衝突車両が力を逃がしてしまっている証拠です。

    被衝突車両への入力が大きくなるにつれて回転力も大きくなり、その結果衝撃が緩和されたと考えられるでしょう。

    ケース4:自転車への衝突

    実験の条件
  • 一定速度で直進、自転車へ衝突
  • 実験の結果
  • ポップアップフードとAEBの正常動作を確認
  • 最後はボンネットのポップアップを作動させる実験です。ポップアップとは、歩行者と接触した際、ボンネットを跳ね上げて、フロントガラスに頭を打ち付けないようにする安全装置の一種です。

    ポップアップの展開を確認。車両解析を行っている最中

    ケース4ではダミー人形を載せた自転車へ突入し、AEB(衝突被害安全ブレーキ)の作動及び、ポップアップの動作状況を確認するものでした。

    こちらの実験結果は、ポップアップの動作を確認し、作動状況をスローカメラで撮影。AEBの起動状態をチェックしました。結果は、想定通りの動作が行われていることを確認。歩行者に対する安全装置の効果を実感しました、

    ※こちらのデータはAEBの動作情報が細かく記されている為、割愛します。

    車体の進化とともに事故の調査も変化していく

    以上の実験が今回岡山で行った実験の概要と結果の簡易レポートです。今回の実験ではEDRに加えてGTS(トヨタの純正診断機)を用いて行いました。

    GTSによるデータの読み取り

    従来の事故検証では路面のタイヤ痕や、車体に残された傷をもとに損傷の大きさから、事故の状況までを推察していましたが、これからは、車体システムに残された情報も事故の原因を特定する重要な情報となっていくように感じます。

    また、この情報は事故のみならず、その車がこれまでに受けた衝撃の有無まで分かります。EDRを用いれば無事故車と謳いながら事故車両を販売するなど、車の不正販売も暴けるかもしれません。

    車を調べるツールは今後もますます進化していくことでしょう。

    今回の実験を実施して下さった主催企業、および協力企業の皆様

    一般社団法人 車載データった解析協会 CDRA

    BOSH 株式会社

    セーフティーワークス

    株式会社MGH

    合同会社nitro

    丸文株式会社

    株式会社ナックイメージテクノロジー

    DTS

    株式会社フォーサイトテクノ

    ENDEVCO

    ORME

    ドライビングアカデミー

    ダイナミックマッププラットフォーム株式会社

    EDRデータジャパン

    株式会社 特調

    株式会社テクノ・セイフティ

    株式会社 東海DC

    日本自動車車体補修協会 JARWA

    ※順不同